煙草とハードボイルド

ハードボイルドな映画

今時、煙草は流行らない。なのに、ハードボイルド小説やハードボイルド映画では、煙草は基本中の基本演出となる。

なので、今回は、煙草に関して、少しだけ、書いてみる。

まずは、ハードボイルド小説から、煙草をみてみよう。

レイモンド・チャンドラー

チャンドラーの描く主人公は、作戦をたてたり、モノを考える時に、タバコが登場してくる。

チャンドラー自身がわりと愛煙家だったから、残されている写真の中にも、パイプを口にくわえているものがある。

キラー・イン・ザ・レイン

私はパイプを詰め、ホット・グロッグとスティナーの青い手帳をもって、すわりこんだ。

ハードボイルドの探偵たちのシガレットは大きく2つに分かれる。キャメル派とラッキー・ストライク派だ。フィリップ・マーローはキャメルを吸う。

かわいい女

私は帳場をとおりすぎて、煙草売り場に行き、キャメルを一箱買った。売り場の中にいる娘は、長い首と疲れた目の麦わら色の金髪だった。二十五セントを出して、おつりが7セント来た。彼女は煙草を私の前におき、マッチをそえ、おつりを「共同募金があなたにお礼をいいます」としるしてある箱に入れた。

ロング・グッバイ

言わずと知れたハードボイルド小説の金字塔。

レイモンド・チャンドラーの最高傑作である「長いお別れ」。

村上春樹の翻訳で、また、人気が再燃した傑作だ。

「けちくさい稼業だな」と彼は言った。「たまらんほどけちくさい」

私はデスクの向こうにまわり、黙っていた。

「一か月にどれくらい稼ぐ、マーロウ?」

私は、何も言わず、パイプに火をつけた。

「よくて、七百五十ドルってとこだろう」と彼は言った。

私は使ったマッチを灰皿に落とし、煙草を何度かふかせた。

私は彼の後姿をしばらく目で追っていたが、途中で見るのをやめた。グラスの酒を飲み干し、煙草の火を消し、それから、新しい煙草を取り出して口にくわえ、火をつけた。老ウェイターがやってきて、机の上の金を見た。

「他に何かお持ちいたしますか?」

「いらない。この金はそっくり君のものだ」

日本のハードボイルド小説の一人者で、このレイモンド・チャンドラーを崇拝している作家がいる。原尞だ。

原尞

フィリップ・マーローに対して、原尞の探偵は沢崎だ。

西新宿の奥まった古いビルの中に事務所を構えている。愛車は中古のブルーバード、だ。

誰にも媚びずに群れずに、自分の生き方を貫く孤高の探偵だ。

私が殺した少女

アパートへ帰ってもすぐに眠れないことは判っていたので、私は事務所に寄って、真夜中の誰もいないビルでタバコを一本ゆっくりと時間をかけて喫った。私をこの二週間に及ぶ窮地に陥れた男は、一万キロメートルの彼方を飛んでいるのか、この都会に潜んでいるのか、それすらも不明だった。

そして、夜は甦る

原尞のチャンドラーに捧げられた沢崎デビュー作だ。

「口数が多いほど探偵の信用は少なくなるそうだ。もっとも、依頼人に対しては別ですがー」

私は上衣のポケットからタバコを取り出して、紙マッチで火をつけた。“ピース”という間の抜けた名前の両切りのタバコだった。

私たちはしばらくタバコの煙の中で沈黙を守っていた。彼は私の両切りのタバコをまったく苦にしなかった。これに慣れない者は、フィルターのない吸口の始末に困ったり、強く吸い過ぎて咳き込んだりして、閉口させられるものだ。彼はそういう要領を心得ていた。やがて、換気の悪い事務所の中にタバコの煙がたちこめた。

とにかく、沢崎は、この最初の作品の中で、タバコを良く吸う。そして、考えるのだ。

私は手紙を封筒に戻し、タバコの煙をくゆらせながら、しばらく考え込んだ。

ハードボイルド小説の探偵は、タバコがないと、やっていけないようだ。

だが、クールに、カッコいい。それだけの話だ。

可能なら、フィリップ・マーローや沢崎から、男の生き様を学びたいね。

幾つになっても。

それがとても大事なことのように思う、今日、この頃だ。

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