消えた小説家
想い出した小説家:庄司薫
考えてみたら、全く持って、『面白い映画・小説・漫画ハードボイルド』と称したブログを書いているのに、『庄司薫』について、何も触れてこなかった。考えてみれば、何故に、ここまで放置してきたかなという感もある。何故か、古本整理をしていたら、彼のエッセイ『僕が猫語を話せるわけ』のハードカバー本を見つけて、ここに至った訳なんですね。つまり、完全に、彼は僕の中から落っこちていたわけなのです。こういうことって、あるんだよね。歳を取るということは。ずっと、忘れていた。そういえば、いたなという感じ。
そして、そこから連想されるのは、消えてしまった小説家ということだ。そうなのだ。彼は確か青春4部作の小説群を書いた後、何故か、ぷっつりと小説を書かなくなり、ピアニストの故中村紘子と結婚したというエピソード以外は、表舞台から消え去ったのである。
ここが不思議なところである。何故、彼は筆を折ったのか?
彼の歴史
彼の小説家としての歴史と消えた理由については、次のブログに詳しい。
1958年に中央公論新人賞を受賞するものの、選考委員で意見が二分される事態に。
そしてその後1960年の執筆作業を終え謎の空白期間が。1966年にとある機関誌に10枚ほどの小説を発表したり、1969年に初めて庄司薫名義で『赤頭巾ちゃん気をつけて』をするまで、一体何をしていたかが謎です。
一説ではエジブト学を学んでいたり大蔵省に勤務していたりと謎の多い空白期間。
そして1973年に中村紘子と結婚します。そして1977年に『ぼくの大好きな青髭』を発表すると、小説は発表せずに現在まで近況がほぼ不明でした。
出典:https://sarattosokuhou.com/entame/shoji-kaoru/
株で成功したということか。印税生活で十分やっていけたということか。ピアニスト中村紘子の夫でヒモであったとか。色々な思惑が飛ぶわけであるが、小説家として筆を折った理由として、小説の世界からのアプローチもいるんではないかなと思う次第なのですね。
村上春樹の登場
次のブログがあることをネットサーフィンをしていて、知った。やはり、何らかのところで、村上春樹の登場が庄司薫に与えた衝撃は大きかったのではなかろうか。こういう推論は立つわけである。このブログでは、雑誌「群像」での評論に、村上春樹が庄司薫に如何に影響を受けたかの話があるのだが、逆に、庄司薫は村上春樹の『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』とかの小説登場で、これからは自分の出る幕ではないと筆を折ったことだって、考えられる。極端に言えば、庄司薫は幾つかの小説の習作を作成してあり、またもや『僕の大好きな青髭』発表後に年月を経てからバシーンと新作小説を出そうとしたが、村上春樹の小説を読み、出すのを止めたのではないかという面白い推論だって出来るのだ。
そう。この手の小説は、その時の時代を読める人しか書けないのである。歳を取るということは大変に残酷なことでもあるのだ。
J.D.サリンジャーの存在
J.D.サリンジャーも青春小説の先駆者。そして、彼もまた、突然、姿を消した。庄司薫がサリンジャーを意識していたのは間違いない。同じように、姿を消し隠遁生活。気になるところである。
サリンジャー ――生涯91年の真実
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』によって全世界的に知られる作家となったサリンジャー。1965年に最後の作品を発表して以降、沈黙を守りつづけ、2010年に91年の生涯を閉じた。 本書は死後初めてとなる伝記で、『ナイン・ストーリーズ』『フラニーとゾーイー』などの代表作をはじめ、単行本未収録の初期短編や未発表作品まで網羅的に紹介。同時に、ノルマンディー上陸作戦での従軍体験、ウーナ・オニールとの恋と破局、最初の結婚、出版社やマスコミとの軋轢……謎につつまれた私生活を詳らかにしていく。 膨大な資料を渉猟し、緻密な追跡調査を行い、さまざまな新事実をあきらかにしたサリンジャー評伝の決定版!
内容解説
そんな推論はさておき、昔のその時代を象徴した芥川賞受賞作品の『赤頭巾ちゃん、気をつけて』について、今回は映画もあるので、次の触れておく。
赤頭巾ちゃん、気をつけて
赤頭巾ちゃん気をつけて 改版 (中公文庫)
女の子にもマケズ、ゲバルトにもマケズ、男の子いかに生くべきか。東大入試を中止に追込んだ既成秩序の崩壊と大衆社会化の中で、さまよう若者を爽やかに描き、その文体とともに青春文学の新しい原点となった四部作第一巻。芥川賞受賞作。
内容解説
カスタマーレビューでは、こんな感じ。
「赤頭巾ちゃん気をつけて」「ライ麦畑でつかまえて」というように題名も語感が似ており、語り口調もライ麦〜にそっくりなので、スタイルとしては似せて書いたのだろうと思えます(著者は否定しているようです)が、内容はまったく異なります。
カスタマーレビュー
文章は洗練されていて、とても面白いです。若い主人公が、いろいろ苦しみながら、社会へ向けて自分のあるべき姿を追い求めるという内容ですが、やはり最後は美しいと思いました。
この作品は「ライ麦〜」と比較されてしまうことが多いですが、まったく別の作品として評価すべきだろうと思います。
映画:赤頭巾ちゃん、気をつけて
赤頭巾ちゃん気をつけて
カスタマーレビューでは、切ない言葉も。
私は昔、庄司薫のこの小説を読み、「僕は海のような男になろう……。」という主人公の決意を読んで、心密かに期すところがありました。
初恋は、小説のようにハッピーエンドになりませんでしたが、その後、思いもしなかった別の女性と結婚し、やがて子供も人に恋する年代となりました。
人間の本質は、昔も今も変わらないのではとの思いから「男の子いかに生きるべきか?」をいかにさりげなく伝えるかと考えていました。
あの当時の気持ちは、「こんな風だった。」とうまく伝えられそうにないので、息子にこのDVDをそっと渡してやりました。
ちなみに、 その後、私自身、再度、映画を観て、暫し感慨に浸ったことは、言うまでもありません。
カスタマーレビュー
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