例えば、前の会社の同期から、「会社のあのビルが新しく生まれ変わるので、我々の勤めたあの懐かしい赤レンガビルは消滅してしまう。なので、24階の談話室でコロナの中ではあるが、同期の懇親会を開きたい。是非、参加願いたく。」との連絡があったとする。
そこで、同期達の顔や喋り方など、イメージをそれなりに頭の中に浮かべてみる。あの入社式からとてつもない永い時が流れているので、自分が日本全国の勤務先で仕事をした中で、触れあうことの多かった同期のヤツらのイメージは何とかなる感じがするが、それ以外の同期の連中の顔が今どうなっているのかは、皆目見当もつかない。40の手前で早期退職して別の会社に移った自分には、特にそうだ。
どう考えても、入社当時のあの若さを維持できているヤツなんていうのは、多分、殆どいないのだろうな。と、思う。何故なら、確実に、今の自分が大変に若いとは言えない肉体であるからだ。そう、あの体や顔の細さもなく、艶のあった髪のウェーブもなくなり、乾燥している身体になっている。
推察するに、同期は、きっと、殆ど、老人になっているのではないだろうか?それが、万物の生命の自然の成り行きに違いないはずだ。皆、それなりに、クタビレテイルのだろうな、と思った次第なのである。
この同期会の呼び掛けの理由も面白い。というか、この俺の老人化に対する思いに繋がる誘いなんだとも思った次第である。
歳を取るということは、人間だけでなく、建物などの物体にも、当然あることで、俺の勤めた、あの有名なビルがその老朽化をもってして壊されることになったことと歩調を合わせているのだ。
外側の赤レンガだけでも残して、中を完全にリノベーションすれば良いのにとも考えるのだが、今回、外国人建築家に頼み、今流行りのクマケンゴではないが、木で出来上がるエコ的な高層建築物になるそうである。
そうか、建築物も、今までを一部維持して若さを取り戻すことが出来ないのなら、人間においては、尚更、老いを止めて若さを戻すことは出来ないんだろうなと、勝手な思い込みをしたのであった。俺。
まあ、同期会に行くのに、男の俺でも、そんな老いと若さのことを考えたのであった。多分、女性なら、きっと、同窓会の連絡が来たりしたら、それこそ、自分の老いと若さについて、必ず、頭の中を駆け巡るに違いない。
まあ、そんなこんなで、俺は、その同窓会へ、足を運んだのだった。そう、怖いもの見たさ、も、あって。同期の何人かは、多分隠しているものの、疲れて、老けて、大変そうな感じをどこかに期待もしたりして。そんな、イジワルな気持ちもあったりしたのは、間違いない。
同期会は、コロナ禍での飲食でもあり、それなりに、間を開けたテーブルで、フルコースの料理とフリードリンクで、言い出し幹事の進行で、この会社らしい自由闊達な雰囲気の中で、進んだ。
俺は、じっくりと、同期の連中を見まわし、まるで、科捜研の男のように、客観的に彼らを検証をしてみていたのだった。
確かに、同期の半数は、髪が無くなって頭がボールドしていたり白髪になっていたり、顔も体も腹にも肉が必要以上についていたりして、俺の期待した通りの老人化現象が起きていたのだが。
驚いたのは、出席している約40人のうちの半数が、若干、大人になったなと感じるものの、入社した時とほぼ同じ体形で同じような顔の細さで髪もクログロと黒黒していたことであった。しわもないし、シミもないような感じだ。
どういうことよ?若さが、そのまま、彼らには、若さが残っているではないか?入社当時の新入社員の顔とコメントが載っている月報を見てきた俺の思い込みなのか?
信じられん。生物の細胞というものは、確実に劣化するはずなのに。そこにいる彼らは、入社した時と全く同じの若さを維持しているように見えるのである。
俺は、明らかに、片方の劣化し老化した組に入る同期なのである。
この場所に入ってから、「おまえ、○○だよね?随分、変わったんで、最初、分からなかったよ」と同じことを何人かに言われたのは、まさに、俺の方なのである。
そう言ってくる同期の誰もが、あの入社時と同じくらいに若かったのである。そんなことがありうるのか?
この若いままの連中は、何らかの生物的な秘密な処置をしたのであろうか?そもそも、この前の会社は損害保険会社で、製薬会社とか生物・生命研究関係の企業ではない。しかし、声や雰囲気は今のその年齢風に年輪を重ねてきた感じはあるのに、外形的な顔や肌や脂肪の付き方において、確実に老齢化をしている感じはないのである。
俺は、かなり、焦ってきた。「若いな、お前達」という言葉が出ないほど、恐ろしくなってきた。
古来、頂点を登りつめた男や女が最後に至って不老不死を求めたということは、良く聞く話しだ。
不老不死の映画も多い。
洋画で面白かったのは、『アデライン、100年目の恋』だったかな。
邦画のつい最近の不老不死作品では、芳根京子の『Arcアーク』だ。
どうにかしてしまった俺は、そんな、夢物語のような映画のことをフラッシュバックのように思い出していた。かなり、俺は、今、おかしくなってきているのかもしれない。
多分、俺は疲れているのだろう。彼等の髪が普通以上にあるから、太っていないから、若いと思っているだけだろう。良く見つめ直せば、そこかしこに、細胞の劣化を見つけられるはずだ。
どうも、気分が悪くなってきた。酔ってきたのか?それとも、これは夢の中なのか?
いつの間にか、俺の目の前が暗くなったのである。
ただ、それだけの話。
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