佐藤正午の直木賞受賞後の最初の長編小説であった『鳩の撃退法』が映画化された。この夏に、もうすぐ、上映される。
鳩の撃退法:映画
この映画、小説が小説だから、多分、perhaps may be、かなり面白いぞ。間違いない。貴方は、どこから、鳩に入っていくつもりだい?
直木賞作家・佐藤正午の同名ベストセラーを藤原竜也主演で映画化。とある地方都市のバー。かつて直木賞を受賞した天才小説家・津田伸一は、担当編集者の鳥飼なほみに執筆中の新作小説を読ませていた。その内容に心を踊らせる鳥飼だったが、津田の話を聞けば聞くほど小説の中だけの話とは思えない。この小説が本当にフィクションなのか検証を始めた鳥飼は、やがて驚きの真実にたどり着く。謎めいた小説家・津田を藤原、津田に翻弄される担当編集者・鳥飼を土屋太鳳、津田とコーヒーショップで出会った日に失踪したバーのマスター、幸地秀吉を風間俊介、津田の行きつけのコーヒーショップ店員・沼本を西野七瀬、彼らが暮らす街の裏社会を仕切る倉田健次郎を豊川悦司が演じる。監督は「ホテル ビーナス」のタカハタ秀太。
出典:映画.com
永遠の1/2
佐藤正午を知ったのは、当然のことながら、今は亡き「すばる文学賞」を受賞した『永遠の1/2』を読んだ時からだ。当たり前だが、この小説構成の巧みさと文章力に舌を巻いたのも事実。それは、この小説を読んだ連中がすぐにもこの作品を映画化したのだから、そのストーリーの面白さは絶品だったのだ。映画自体もそれなりに知る人ぞ知るで、面白いものだったし、時任三郎と大竹しのぶという配役を埋め込んできたのもナカナカ先見性があったのかもしれない。
このアマチュアの時の佐藤正午は今と全く同じで、物語に対する企みな仕掛けが半端ない。とにかく、上手いのだ。二重三重に話を面白くさせている。そして、主人公に、『鳩の撃退法』の津田伸一と同じく、女好き・博打好きのぐうたらな男を持ってくるのだ。ここに、ミソがある。佐藤正午の小説は、何とも言えないくらいなダメ男が良い味を出してくるのである。佐藤正午が無類の競輪好きということもあるのだろうが、真面目な男では、この小説家の長編作品に多い目の前に飛び込んでくるとんでもないプレッシャーには耐えられないのである。だからこそ、面白い。
永遠の1/2 (小学館文庫)
現代作家の中でも群を抜く小説の名手――佐藤正午の不朽のデビュー作を、新たな装いで文庫化!
【物語】
失業したとたんにツキがまわってきた。
婚約相手との関係も年末のたった二時間で清算できたし、年が明けると競輪は負け知らず、失業保険も手つかずのままで、懐の心配はこれっぽっちもなかった。
おまけに、色白で脚の長い女をモノにしたのだから、ツイてるとしか言いようがない。いってみれば笑いが止まらぬというところだった。「西海市」にすむ主人公・田村宏は、27歳の年の暮れに退職届を出して以降、ツキを頼りに何もかもうまく行くかに思われた。
ところがその頃から、たびたび街で別人と間違われ、厄介な相手にからまれ、ついには不可解な事件に巻き込まれてしまう。どうやら自分と瓜二つの男がこの街にはいるらしい‥‥。
鳩の撃退法:小説編
ところで、鳩の撃退法だ。山田風太郎賞を受賞した時の選評者の発言もまた凄い。一言言わせてもらえば、今まで、この作家を知らなかったのかい!である。
巧みなストーリーテラー、佐藤正午。巧緻なレトリックを駆使する小説家。
彼は史上まれに見る嘘つきか、天才作家か?
【山田風太郎賞受賞の最近作『鳩の撃退法』への選評から】
●文句なしの最高得点を入れた。真似したくても真似できない。(夢枕獏さん)
●試みが図抜けていたことは、疑いようがない。(京極夏彦さん)
●自分もこの作品を一番に推した。(奥泉光さん)
●こんな優れた作家の存在を今まで知らなかった。受賞は当然であろう。(筒井康隆さん)
[まとめ買い] 鳩の撃退法
山田風太郎賞の受賞からおよそ2年後、著者は『月の満ち欠け』で第157回直木賞を受賞したが、関係者のあいだでは本作が直木賞でも――といった声も出ていたという。
連載に3年を要した本作は、著者本人も「墓碑銘にしたい」「思い残すことはないくらい、本当に集中して書いた」と語る、まさに渾身の作品です。【ストーリー】
かつて直木賞も受賞した作家・津田伸一は、とある地方都市で送迎ドライバーをして糊口をしのいでいた。
以前から親しくしていた古書店の老人の訃報が届き、形見の鞄を受け取ったところ、中には数冊の絵本と古本のピーターパン、それに三千枚を超える一万円札が詰め込まれていた。
ところが、行きつけの理髪店で使った最初の一枚が偽札であったことが判明。
勤務先の社長によれば、偽札の出所を追っているのは警察ばかりでなく、一年前の雪の夜に家族三人が失踪した事件をはじめ、街で起きる騒ぎに必ず関わる裏社会の“あのひと”も目を光らせているという。
津田伸一
津田伸一という佐藤正午の小説の主人公に魅せられたのなら、次の作品も読むべきでしょうね。
貴方が、ひねくれ者で女好きでグウタラで頭が回る男が好きなのなら、是非、読んでみるべきでしょうね。どうしようもなく、平均的な日常生活を送れないグウタラ人間だからこそ、見えてくる我々の日常を抉り取って、面白いのである。
津田伸一は、本当に、侮れないのである。
5
「憶えてるよ」僕は正気を取り戻した。「スープも人の感情もいずれ冷めてしまうという一行だね」「本気で書いたんでしょう?」「本気だよ」「必ず冷めるもののことをスープと呼び愛と呼ぶ」「真理だ」「その真理がくつがえるんです」。洗練された筆致と息をつかせぬリーダビリティで綴られる、交錯した人間模様。愛の真理と幻想を描いた、大傑作長編。
カスタマーレビューでの津田伸一の人物像の指摘はこれが一番。
「鳩の撃退法」の津田伸一の前日譚。性格がひねくれて相手を傷つける会話しかできない男(のくせして女性に不自由しない男)という、あまり好きになれない主人公なので、先にこちらを読んでいれば「鳩」を読まなかったかもしれません。書いた順とは逆ですが、読む順としては「鳩」→「5」が正解だと思います。そしてまた「鳩」の上巻へと・・・。
月の満ち欠け
直木賞受賞作品であるが、ある意味、津田伸一シリーズ3部作の原点でもある。
輪廻転生も、また、面白し。
あたしは,月のように死んで,生まれ変わる──目の前にいる,この七歳の娘が,いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の,三十余年におよぶ人生,その過ぎし日々が交錯し,幾重にも織り込まれてゆく.この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は,戦慄と落涙,衝撃のラストへ.
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