庄司薫について考える②:白鳥の歌なんか聞えない

小説

青春4部作の2作品目の小説

庄司薫の青春薫ちゃんシリーズの4部作は、『赤頭巾ちゃん気をつけて』『さよなら怪傑黒頭巾』『白鳥の歌なんか聞えない』『僕の大好きな青髭』である。

刊行順で言うと「赤」「黒」「白」「青」の順。作品の時間の流れで言うと「赤」「白」「黒」「青」の順。ですので、薫ちゃんの人生を考えると、「赤」の次に読むべきは「白」になりますね。

死にゆくもの、滅びゆくものを前に、ふとたじろぐ若い魂。そして「死にゆくもの、滅びゆくもの」として見つめられ愛されることを拒絶する、もう一つの若い魂。早春のきらめきの中に揺れる、切ないほど静かで、不思議に激しい恋の物語。

内容紹介

死と若さ

ヒットしたり文学賞を取ったどんな文芸小説でも、漏れなく付いてくるのは、実は、この人の死ってヤツだろう。それは、主人公の若さと対比させていくことで、その生と死の深みをえぐっていくのである。今となっては古い昭和の時代の青春小説であるこの『白鳥の歌なんか聞えない』も、ご多分に漏れず、そこにフォーカスしている。そして、軽妙洒脱な軽いタッチの文章であるが故に、実は、この老人を巡る死の話がう意外とズシンと胸に来るのである。

村上春樹にしても、死を必ず小説の向こう側にいつも置いている。それは、文学の命題なのかもしれない。死期の迫った老人を世話する薫君の恋人由美。あくまで優雅に振舞うダンディーな老人。しかし、由美は老人の下の世話までしていたのだ。そして老人の死去。死に対して、庄司薫は作品主人公の薫君を通じて、死を考えていく。そして、死について考えるということは、いかに生きるべきか考えることとの裏返しであることを軽くやんわりとしかし静かに重く伝えてくる。人は何のために生きるのか。到達できないほどの知識人である小沢さんのおじいさんも最後はただただ死して消えていく。それも上品でもなく。これはどういうことなんだ?はたして、薫君は死ってものに近づけたのだろうか?そして、彼女の由美ちゃんと薫君の生きていることの意味を性的な若さの中で感じ取っていかざるを得ないような展開になるのだろうか。

小説の面白さはどこにあるのだろうかと考える。小説は、その時代をバックボーンにしていることが分かればわかるほど、人気を呼ぶ。時代を反映していることが文章の向こうから感じられるほど、その時代の現代小説と賞されるのだ。そういう観点からみても、庄司薫の青春4部作はまさにあの時代の今となっては近代歴史の一ページとなる大学闘争があった昭和のその時を直接書かずに薫君の軽そうに見える日常生活の中に感じさせることでその時代を描くことに成功した稀有な小説だったのである。

映画『白鳥の歌なんか聞えない』

それは、モクレンの花か咲き始め、東大入試で、薫は浪人する決意を固めた頃。由美はめでたく名門女子大学に合格し、二人は薫の自転車で町内を一周、モクレンのある斎藤さんの所を過ぎ、コデマリの生垣のあるお屋敷の藤椅子に、いつものお爺さんがいないのに気がついた。ある日、由美とデイトの最中にバッタリ会った由美の大学の先輩小沢圭子を送った薫の家に、日比谷高校の朋友、小林と横田が遊びにきていた。しばらく後、薫の前に現われた由美の様子はいつもの由美と大分違っていた。別れ際に薫に頬を寄せるなんて信じられない大問題だ。翌日、由美から、“あなたがとても好きです 由美”という手紙と共に犬の縫いぐるみのプレゼントを受けた薫は、由美に意見しようと彼女の家の前までやってきたが、とても声などかけられない。そこに圭子がGTに乗って現われた。どうやら由美の心境の変化は、この圭子に関係があるらしい。「あなたのお爺さんのことをお聞きしたいのです」「いいわ家にいきましょう」静まり返った大書斉の中に、ぎっしり積まれた膨大な書物を、お爺さんは全部読んだという。薫は、そんな人間が、人生の黄昏を迎え病気になったら人間の一生の努力なんて虚しさだけが残るのではないだろうか、由美は死を見つめる淋しさから逃れるために自分を求めているのではないかと思った。薫は、その夜圭子にキスしたのも、そんな由美の考えに反撥したからに他ならない。果して由美は、お爺さんの死を前にして感傷的になっていた。ある夜、由美から電話があり、直ぐ来てくれという。お爺さんの死を前にして、圭子も邸にいたたまれなくて由美の家に来ているという。連絡してくるであろう電話のベルに耳を傾けながら、三人は思わず息をつめる。まるで白鳥の歌でも聞こえるかの様に、二人がいる安心感からか、圭子は眠り始めた。由美は薫を隣室に促して服を脱ぎ始めた「抱いて」。こんな死の影を怖れる様な形では絶対にいけない「駄目だよ」。ベットに裸体を横たえている由美の手が薫の手を掴んだ。薫も由美の手を握りしめ、そのまま由美を抱きしめた。目がくらむ快感の中で、薫は身動き一つできぬまま射精していた。その時、階下で電話のベルが鳴り響いた。圭子のお爺さんの死の知らせだった。由美は薫に圭子を送らせた。圭子が静かにいった。「ごめんなさい貴方達まで捲き込んでしまって。でも私、本当に死ぬなんて思っていなかった」圭子の眼に涙が光っていた。薫は今来た道を引き返す。まだ由美の部屋に灯りがついていた。モクレンの枝を門にたてかけ由美の部屋を見上げた時、薫の頭の中にこの六日間の出来事が去来して、急に涙が溢ふれそうになった。「白鳥の歌なんか聞えない」薫は、はっきりそう想った。

出典:白鳥の歌なんか聞えない : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)

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