熊谷守一の晩年の日々を描いたある意味、名作。山崎努と樹木希林が熊谷夫婦となり、かなりの個性を出して、かなり面白い。時間的に余裕のある人には、是非観ることをお勧めしたい。こういう老年夫婦になれたら、良いよね。
仙人と庭
毎日、庭に出掛けるモリ。妻に挨拶をして出掛ける。目の前の庭に。豊島区の中にある一軒家としては、かなりの敷地はあるかもしれない。
庭の石を見続けるモリ。ただただ、見守る。そして、長時間経ち、モリは左手に石を移す。そして、その両手にあるものを見続ける。
アリの歩くのを見続けるモリ。熊谷守一の写真を撮っているカメラマン加瀬亮に、モリは言う。「近頃、ようやく分かったんだよ。アリは前足の2本目から歩き始めるんだよ」加瀬亮と若いアシスタントは、モリと同じような姿勢になり、アリの歩くのをずうっと見守る。
人の集まる家
ただただ、モリの家に人は集まる。そして、勝手に家に上がり、皆、勝手に振る舞う。自分の家のように。モリも妻もお手伝いも、そのまま自然に、それを受け入れる。
モリの家の前にマンションを建設している土方連中にまで、買い過ぎた料理を振る舞うモリ家族。大きな、1つの宴会が出来上がってしまう。
三上博史も一番最初に人がモリの周りに集まり、突然の発言をして、家を出て行ってしまうが、集まった人々は三上博が誰かなのか、知らない。実は、最後に、面白い役として再登場してくる。そういうこと?
妻
モリは妻が好きだ。仙人のように生きているが、妻を大事に思っている。
建設会社に訴えられたら、「母ちゃんが疲れちまいますから。それが、一番困る」とモリは妻のことを考え、マンションの建設も許す。優しいんだよ。モリは。
そして、妻は飄々とモリを内包している感じだ。
庭に出て行くモリを毎回「行ってらっしゃい」と見送る。
夜、絵を描きにアトリエに入らせるために、妻樹木希林は「学校に行かなくていいの?」と言う。モリは「学校があるのは大変だ」と言いながら、アトリエに入っていく。どれも、飄々としている。
二人で囲碁もする。そして、ほとんど、妻にモリが負ける。
群れないブレない人
モリは群れない。そして、ブレない。金も名誉も関係ない。庭と絵と妻がいれば、それが全てだ。だから、30年は家と庭から出たことがないとも言われる。
国から文化勲章を授けたいと電話で連絡が入っても、取りついた妻に「いらない」と言う。妻も、本人がいらないと言っているので結構ですと返答する。後から、皆に何故要らないのだと聞かれて、沢山人が来るのが嫌だと答えるモリ。
実際のモリ
やっぱり、仙人だよね。
彼の絵は非常にシンプルな抽象画。
映画の中でも確か一番最初に、昭和天皇と思わしき人がお付きに聞く。「これは小学生が描いたの?」と。
へたも絵のうちとモリは言う。
映画モリのいる場所
二人とも文句はあるけど、いつも一緒で。庭の虫が植物が生物が魚が大好きなモリだけど、本当は、母ちゃんが一番大好き。イイね。妻の樹木希林が呟く言葉もグッと来る。「こんなに長く生きちまって。うちの子達はあんなに早く・・・」大変なことがあっても、それを乗り越えて、今の二人の生活が愛おしいね。本当に、静かに観た映画です。
モリは言う。もっと長く生きたい。生きるのが好きなんだ。
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