ちょうど1年前の2020年1月に刊行された白石一文の『君がいないと小説は書けない』は、彼の自伝的な小説である。
この小説は、色んな意味で面白い。
小説『君がいないと小説は書けない』
勤めていた出版社の上司、同僚、小説家の父、担当編集者。これまで誰にも明かすことのなかった彼らとの日々を反芻すればするほど、私は自問する。私は、書くために彼らと過ごしていたのか。そして、最愛の女性・ことり。妻と正式に離婚することができていない私は今、ことりと生活している。しかし、ことりの母親の病気がきっかけで、私たちは別居生活を余儀なくされる。そしてある日を境に、私はことりへの猜疑の念に囚われてしまった―。神に魅入られた作家が辿り着いた、究極の高み。
内容
感想は多岐にわたる
カスタマーレビューには、こんなコメントあり。
この本から人生を振り返り、またこれから生きていくうえで多くを学べる一冊である。
思考を辿る部分は、とても含蓄のある内容であり、面白く引き込まれる。
女性との出会いは、いろいろな意味で人生を豊かにし、時に大切な身近な人との距離を壊す多面性を帯びる。それこそが、ある意味では儚さをゆうした人間であり、人を愛するということが時に辛く、生き辛さを感じることもあるが、だからこそ魅力的に感じる。
分かる人には共感されるであろうが、読み手によってはそう感じないというのが、世の中いろいろな人がいるからでもあるということでもあろう。
これは良い方のコメント。
辛辣なコメントでは、こういうのもあり。
私は性格が悪いんだろうな。氏の小説をいくつか読み続けて、面白がれていたのに、この小説を読了後、全く関心をなくした。なんだよ、全部自慢話じゃん。美人でアニメっぽい性格の奥様でよかったね。私小説って割には、全然当人の自我は傷ついてないじゃん。前の奥さんとのこと、子供との関係、それも私には自慢の一つにしか読めない。いや、たぶん私がゆがんだ性格してるからそう思うんだろうけど。
正妻のほかに後から出会った美人な本妻?がいてゴタゴタしているだけのただのゲスの極み乙女小説。しかもやたら自分を美化したりすごい人のように描いていてなんかもう…ただの自慰小説じゃん…(悲)
だが、総論的には、次のようなコメントに至るのが普通かもしれない。
よくぞ、ここまで自分を書いたなと思います。これによって白石氏は魂の浄化を図ったのかもしれません。私の垢も随分と落ちた気分になりました。白石ファン必読の書です。
御自身の内面をよく表現できたなと感じます。社会描写も現実的でとても面白かったです。
この小説は昔の作家が書いていたように、私小説であること間違いなく、自伝的小説であり、私からすれば、よくもまあ、ここまで正直に自分と自分の周りのことをここまで吐露できたなという感想を持ってしまう。
私小説でなく哲学書か幸福論で良いのかも
白石一文の私小説として捉えるのではなく、1つの個人的で独創的ではあるが、人生論でありものを考える上での哲学書的な部分もあり、人の幸福とは何かを考えてしまうような幸福論の本でもあると位置づけると、この小説は極めて面白い。こういう見方があるのだなと思えるものだし、人間って言うのは実にこういう存在であるかもしれないなとも思う。
確かに、白石の指摘する考えというか思索はポイントを突いている。
例えば、
この国で出世したいのなら、責任感を放棄(無責任能力)し、家族・部下・友人・知人・同僚への同情・憐みといった感情(共感欠如能力)を持っていなくてはならないという白石のアイロニカルな指摘は、サラリーマンなら、なるほどなと共感してしまう。そういうように整理すれば、スッと胸に落ちてくるな、って感じですね。面白いな。見方が。
死に対する考えも時間に対する考えも、どれもがそういう方向から見て考えているのかと思うくらい、ポイント・オブ・ビューが鋭い。そういうところが随所に表現されていて、読んでいて楽しくなる。
そうか、これからの人生をこういう視点から捉え直すことも必要かもしれないなと思うので、人生の書としても、やはり、この本は面白いかもしんないね。
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