めぞん一刻を語る⑰:感情のまま動く響子さんの自由と万能感

めぞん一刻

「めぞん一刻」での響子さんは、管理人さんとしてはクセのあり過ぎる住人たちに対して真面目に真っ当に冷静に対応をするのですが、こと、五代君のことに関係することについては、物語の最初から最後まで、とても感情的な行動や発言が目立ちます。そこに、この面白い漫画である「めぞん一刻」の太い骨格があるのかもしれません。

出典:『めぞん一刻』(c)高橋留美子/小学館

この響子さんの行動や心理に対して、読者である僕等は、何故か、共感を覚えますし、そういう響子さんに魅力を感じるのです。前に、響子さんのことに関して、このブログの中で書いた記事で『嫉妬の心理』というものがあります。

めぞん一刻を語る③:嫉妬の心理
哲学者の嫉妬についての考え方と漫画『めぞん一刻』における嫉妬の構造を対比しながら、やっかいそうな、この「嫉妬」なるものを切り拓いてみたい。

哲学者の嫉妬についての考え方と漫画『めぞん一刻』における嫉妬の構造を対比しながら、やっかいそうな、この「嫉妬」なるものを切り拓いてみたい。

響子さんの嫉妬という感情に関して、愛に繋がる嫉妬の感情こそが、自分を見せようとする大した感情であり、自分の存在を充分に他人に認めさせることに他ならないとする哲学者の考えを紹介したものでありました。そして、響子さんの人間的過ぎるところー嫉妬深かったり、怒りっぽかったり、ストレートに自分を表現できない「面倒くさい女」であることの魅力を論じたものでした。嫉妬心が良い方向にアウフヘーベンした漫画として最高であるとも書いたような気がします。

出典:『めぞん一刻』(c)高橋留美子/小学館

この響子さんのある部分での感情のまま行動し生きるというところは、嫉妬心の論点だけではなく、今のストレスフルな社会において、もしかしたら、とても重要な意味のあることなのかもしれないと思ったので、ここに、再度、メンドクサイけど魅力的な響子さんのことについて、記しておくことにしたのです。

例えば、五代君に対しては、その想いの裏返しか、響子さんは、結構、大胆に手を挙げるのです。本当に、心がこもっているので、痛そうですね。気持ちの表れが、ハッキリと行動に出てきます。

出典:『めぞん一刻』(c)高橋留美子/小学館

彼女の心理的行動においては、全体として、自分を自己否定し周囲に気兼ねをするというような自分で自分の自主性を押し殺すようなところはない。ここが大事なのである。

社会には、組織があって、そこには会社のような公式組織もあれば、自分の住む地域の人々の中での非公式組織もある。組織があれば、そのような組織構造には支配者や権力者やリーダーが自ずと出来上がり、何故か、支配側の権力者たちの万能感ー何でも俺は出来るんだという感覚ーに影響されることが多い。結果として、その支配者側に阿る(おもねる)ことで自分の本当の感情を押し殺し、いつの間にか、自分の中にストレスを貯め込んでしまう。何とか適応しようとして、反対に、自分の自由なものを失ってしまうっていことが多い。

出典:『めぞん一刻』(c)高橋留美子/小学館

ところが、響子さんには、この万能感という感覚はない。(五代君にも、実は余りないのである。)自分の本当の心の感情を押し殺してまで、社会の支配的な考えや権力者に阿るようなことはしない。色々なさまざまな人との人間関係の中で発生する心と心の触れあいそのものを大事にするのである。そこには、上下関係も自分を卑下することもない。他社との関係で、常にイイ子でいようとはしないのである。

出典:『めぞん一刻』(c)高橋留美子/小学館

ある意味、響子さんは感情的そのもののところが多くありますが、自分の存在や意義について自分で考えられる力を持っているのです。真の自由というものを小さい時から持っていたのに違いありません。そこには、万能感を有した権力者や支配者や社会からの自由があります。

出典:『めぞん一刻』(c)高橋留美子/小学館

『めぞん一刻』という漫画に我々が好印象を受けるのは、この真の自由さというものを兼ね備えている響子さんに親近感を感じるからなのに違いありません。そこには、誰かに支配されるとか権力に屈するというところからの自由な姿があるのです。

考えてみたら、この漫画に登場してくる個性豊かな人物達は、皆、その大きさの違いや方向性の違いはあるにせよ、皆、権力や権威に屈しない自由度があるのです。そこに、今の時代でもこの漫画が人の気持ちの救いになるようなところがあるのではないでしょうか?

出典:『めぞん一刻』(c)高橋留美子/小学館

万能感という権威や支配層の持つ負のパワーを弾き飛ばす真の自由の姿の有り様を結果として描き出していることも、この『めぞん一刻』という漫画の持つ哲学的に心理学的にも素晴らしいところの一つではないでしょうか?

響子さんには、その辺りが一番色濃く出ています。私には、この漫画を読めば読むほど、そういうことを感じるのですが、皆さんは、どうですか?

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