幸せ修行道の記事
この映画には、同調と言う言葉が似合う。ここまで登場人物にコレスポンドする俳優達はいないであろう。孤独を小説にして、孤独を絵にして、孤独を映画にするために。
家福であること
もうすぐ夏が来る。今までとは違う夏である。
主人公の家福を演ずるのは、西島秀俊。多分、この村上春樹の短編小説の主人公の俳優は彼しかいなかったであろうな。友達がいないという点や、孤独や死が向いていそうなというところでも、コレスポンドする感じがあるじゃないか。それが文学と映画の同調か。
こういう終わり方も良いかもしれない。
少し眠ろうと家福は思った。ひとしきり深く眠って、目覚める。十分か十五分、そんなものだ。そしてまた舞台に立って演技をする。照明を浴び、決められたセリフを口にする。拍手を受け、幕が下りる。いったん自己を離れ、また自己に戻る。しかし戻ったところは正確には同じ場所ではない。 「少し眠るよ」と家福は言った。 みさきは返事をしなかった。そのまま黙って運転を続けた。家福はその沈黙に感謝した。
出典:女のいない男たちP.62-63
映画公式サイト
三浦透子であること
家福の専属ドライバーになったのがみさき。みさきを演じたのが、三浦透子。こちらも、孤独を表現させるとしたら、友達がいないとしたら、村上春樹的小説でいうところの美人ではないが気になる女性ということからしたら、この女優しかいなかったのでないだろうか?この小説を映画化するのに、よく考えられた配役ということになるな。やっぱり。
そのあとの沈黙は前の時より長く続いた。 「君には友達はいる?」と家福は尋ねた。 みさきは首を振った。「友達はいません」 「どうして?」 彼女はそれには答えなかった。目を細め、ただ、じっと前方を見ていた。
出典:女のいない男たちP.38-39
高槻が岡田将生であること
家福がみさきに高槻のことを語る。
「でも、はっきり言ってたいしたやつじゃないんだ。性格は良いかもしれない。ハンサムだし、笑顔も素敵だ。そして少なくとも調子の良い人間ではなかった。でも敬意を抱きたくなるような人間ではない。正直だが奥行きに欠ける。・・・それに対して僕の奥さんは意志が強く、そこの深い女性だった。・・・なのになぜそんななんでもない男に心を惹かれ、抱かれなくてはならなかったのか、そのことが今でも棘のように心に刺さっている」
出典:女のいない男たちP.61
小説の高槻が岡田将生であることは、岡田将生であるが故に、小説に同調化できる。この役も彼をおいて他にはいないだろう。
予告編
車が、サーブであること。
そして、村上春樹的には喪失。ウシナワレルコト。
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