鳥獣戯画:磯崎憲一郎

小説

久しぶりに、面白い小説と小説家に出会った。磯崎憲一郎の『鳥獣戯画』だ。

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鳥獣戯画

磯崎憲一郎の小説

この小説は、正直言って、面白い。自分が2020年に出会った小説の中では、かなりの上のレベルにあるものだな。


鳥獣戯画

人間が考えることなど動物は何もかもお見通しなのだ。二十八年間の会社員生活を終え自由の身となった小説家。並外れた美貌を持ちながら結婚に破れた女優。「鳥獣戯画」を今に伝える名刹を興した高僧。父親になる三十歳の私。恋をする十七歳の私。語りの力で、何者にもなりえ、何処へでも行ける。小説の可能性を極限まで追い求める、最大級の野心作。

内容説明

面白い点

文体

どこが面白いか。

まずは、文体。そこから行くのって感じだが、この文体はある意味、この磯崎憲一郎なる小説家は、意識して当然持ってきたもので、長回しの半長文系であるが、実は読みやすいというもので、実験的発見でもある。

例えば、こんな文章だ。

彼女は美人の人生を歩み始めていた、それはどうやら酷く孤独な人生となろうとすることも予見できたのだが、しかし、彼女には犬がいた、犬を飼い始めてから彼女が家を出るまでの十六年間、大雨の日と風邪で寝込んだ日を除いて、一日も欠かさず彼女は犬を散歩に連れていった、いや、日が傾いて西の窓から差し込む光が黄色がかってきて、いつもの散歩時間になったことを察した犬が落ち着きなく彼女の周りをうろうろし始めたならば、たとえ彼女は発熱して横になっていたとしても迷うことなく、いきおいよく布団をはね除けた、寝間着の上にダウンジャケットを羽織って、いきなり全力で疾走する犬に引っ張られるようにして、彼女も住宅街の坂を一気に駆け上がった、二月の終わりの晴れた夕方だった。

鳥獣戯画:P.38

このような冗長に長く続く、話し言葉のような文章は、昔で言えば、野坂昭如などが駆使した文章の書き方でもある。近頃は短文で続ける文章小説が多く、むしろ、磯崎のようなスタイルは稀だ。だが、この文章であるが、読み続けるうちに、非常に読みやすく、小説の内容が頭に入ってきやすい構造になっていることがわかる。読破した後、何故だろうかと考えたのだが、この小説の主人公が高校でバンドをやっていたこととも関係するのだろうが、その文章の感覚は音楽のリズムなのであろう、きっと。

どこへでも行ける

そして、もう1つ。この小説の面白さは、そのストーリーの破天荒さにあるのではなかろうか?実体としては、とてもカタチにハマったソリッドなストーリー展開に見えそうだが、実は全く違う。この小説の帯にもあるのだが、次の言葉が一番似合っている。

語りの力で、何者にもなりえ、何処へでも行ける。小説の可能性を極限まで追い求める、最大級の野心作。

そうなのである。多分、私が推定するに、これは、小説の形を取った筆者の自伝的文章であるのだろうが、この小説の中で、筆者は色々な場所に行き来する。そこは、鳥獣戯画の明恵上人の世界であったり、高校時代の主人公の世界であったり、今の若い女優との世界であったり、突然のシーンチェンジがあっても、全てが上手く繋がっている。

要は、磯崎憲一郎は、自分の過去と今に向かって、思うところを正直にありのままに、あの長回しセリフの文章で表現したのだ。そこにこそ、自分の体と心の依拠する全てがあるとでも言わんばかりに。

そこが大変面白い。こうやることで、自分を表現出来ることを磯崎憲一郎は教えてくれたわけなのである。

我々も自分の今までの生き様をこういうカタチで整理することで、自分の生きている間のルーツを知ることが結構大事かもしれないと感じさせてくれたのである。そう、どこへでも行ける。

鳥獣戯画を読み解く


調べる学習百科 鳥獣戯画を読みとく

「日本で最初のマンガ」といわれる鳥獣戯画とは何か?
どんな話で、どんな登場人物(動物・植物)が描かれているのか。そしてその目的は?

秘密の多い絵巻の七不思議を解明する。実際の鳥獣戯画の描き方やほかの絵巻も紹介。

内容紹介

鳥獣戯画の謎 (別冊宝島 2302)

誰もが一度は目にしたことのある、国宝『鳥獣戯画』。
いきいきとした伸びやかな筆づかいで愛嬌たっぷりに動物たちを描き、今日もなお、鑑賞者の心を掴んで離さない名作です。
実はこの絵巻、「誰が、何のために描いたのか?」「何を物語っているのか?」など、
いまだ多くの謎に包まれた非常にミステリアスな作品なのです。

本書では、修復を終えたばかりの高山寺所蔵『鳥獣戯画』絵巻のほか、現在国内外に散らばっているコレクションも一挙に紹介。
たくさんのビジュアルとともに、わかりやすく丁寧な解説でその謎に迫ります。

内容紹介

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